野村総合研究所のレポートから見るプレゼン資料のレイアウト
私はいままでビジネス系のプレゼン資料をたくさん見てきましたが、数年前にとても感動した資料に出会いました。
それは、野村総合研究所が公表する『日本の不動産投資市場 20XX』です。
この資料は、日本の不動産投資市場の動向を年次でレポートしたものです。不動産全般からタイプ別の動向まで、非常にわかりやすくまとめられています。
おおむねペーパー100枚弱の構成ですが、ビジネスプレゼンテーションのお手本ともいえる資料であると評価しています。
では、この資料のどこ良いかを、主にレイアウトの観点から分析してみます。
1.余白の使い方が上手い
上記のページは、目次の次にくる最初のペーパーですが、以降のペーパーも基本的にほぼ同じレイアウトにしてあります。
読み手にうるさい情報を与えないよう、極力余分な物を排除する努力がみられます。
- タイトル部分
小見出しを囲みなしで左上に配置しています。
普段資料作成する際、左上から右下に視線が移ることを前提に、左上にそのページの小見出しを置くことはよくあります。
囲みを用いたり、図形で白抜き文字にすることが多いなか、あえて、タイトルメッセージと同じフォントにし、大きさのみを変え、添えてあります。
うるさい枠線などを見せない、すっきりしたレイアウトとなります。
- タイトルメッセージ
おそらくTBゴシックEを用い、グラフの内容をワンメッセージで言い表しています。
タイトルメッセージの下には、タイトル部分と本文部分を切り分ける細い線が引かれています。
薄い灰色を用い、余白を邪魔しない、非常に目に優しいものになっています。
- グラフ
グラフの罫線は薄い灰色を用い、できるだけ細くすることで、棒グラフを邪魔しません。
グラフの数値も灰色で、年号の羅列もさほど圧迫感がありません。
棒グラフも囲みのない薄い青灰色を基調とした強調性を抑えたものになっています。
このグラフで最も工夫のある部分は、実績と予測を分ける前後のみに、棒グラフの数値を添えてあることです。
全ての棒グラフに数値を記載しても、あまり意味がありません。
読み手に見て欲しいところだけの情報を与え、それ以外は記載していません。
2.フォントのジャンプ率もおおむね2倍程度
タイトルメッセージと本文とのジャンプ率も、おおむね2倍程度と想定されます。
知性的に見えるビジネス・プレゼンテーション資料の鉄則の範囲内といえます。
3.本文部分をタイトルメッセージ下線が規定
一見、タイトルメッセージの下線も必要ないのではと感じるのですが、この線は下の本文部分のエリアを指定する効果を与えています。
したがって、この線の外側にグラフや文章がはみ出ないことが大切です。
実はこのプレゼン資料ですが、あるページではこのエリアをはみ出たグラフが存在しており、とても残念です。
4.会社ロゴを左下に配置し、邪魔しない
視線を邪魔しない部分に置く「鉄則」をしっかり守っています。
5.色使いや使用フォントにも知性が感じられる
今後のテーマにはなりますが、色使いも野村総研のコーポレートカラーを基調に設定され、多くの色を使っていません。
フォントもMSゴシックとTBゴシックEを基本に作成しています。
一部のグラフで別のフォントが使われているようですが、グラフ内に限られており、特に違和感はありません。
このように「読ませるプレゼン資料」のレイアウトを真似ることが、きれいに見せる資料を作るスキルを高めることになると思います。
まずはレイアウト ③グリッドを利用した紙面のレイアウト
次に実際の紙面をグリッドを用いて分割する方法について整理します。
グリッドは見やすく理解しやすい紙面を作るための補助
グリッドとは、文字や図表を配置しやすくするための紙面割りのための補助線です。
グリッドに沿って配置することで整頓されたきれいな紙面が作成できます。
グリッドはマージン(余白)を使って紙面の内側を均等に分割します。
A4横のプレゼンテーションペーパーの場合、297cm × 210cmですが、これの縦横を一定のマージンをとります。
適当な幅として縦横1cmをマージンを置き、そこに横6×4、6×5、8×4、8×5といった形で、四角に区分します。
区分するにあたって、グリッドで囲まれた四角と四角の間にマージンをとります。
これも適当な幅として0.5cmをとります。
するとそれぞれの四角いマスの大きさは、例えば6×4で幅42mm × 43.75mmとなります。
他にも黄金比 1 : 0.618 や白金比 1 : 0.414 を使うというやり方もあるようです。
Mac OS Keynoteの標準フォーマットに5×3のグリッド配置
配置しやすい枠組みは必要ですね。
まずはレイアウト ②ジャンプ率と反復
レイアウトの構成要素の「ジャンプ率」と「反復」についても重要です。
コントラストの一種である「ジャンプ率」も、プレゼンテーション・デザインの重要な要素となります。
「ジャンプ率」とは、大きさの差を表し、例えば図や文字を対比させる場合に、大きさに差をつけることで、読み手の注目度を変える役割があります。
特に文字の場合は「タイトル」「見出し」「本文」といったような文字要素の役割に応じて、通常は大きさを変えます。
ジャンプ率が高いほど、活気や躍動感が出る一方、ジャンプ率の低い場合は、落ち着きや誠実さ、知的な印象が生まれます。
ジャンプ率に基準はありませんが、プレゼン資料のジャンプ率1.5~2.5倍という考え方が示されいている書籍もあります。
説明型のプレゼンでは、例えば本文の中の注目すべきキーワードや数値を取り出し、2.5倍程度のフォントサイズを用いるのが良いかもしれません。
文字において言えば、「太さ」のジャンプ率の一種かもしれません。
フォントの一部を構成しているものでもありますが、文字の太さの差がジャンプ率を生み出し、読み手の目線をそこに集中させます。
2.論理的構成を与える「反復」
レイアウトにおいて、「反復」は統一感を生み出すための手法です。
同一のデザイン・ルールで文字や図表、写真などを配置していくことで、プレゼンテーション内容に論理的構成を与えます。
余白やジャンプ率を使いながら、反復にコントラストを与えることが重要です。
また、反復は1枚の紙面の中だけで用いられるルールではなく、複数枚のプレゼンテーション・ペーパーにおいても同様に利用すべきです。
反復のルールにおいては「配置」「大きさ・ジャンプ率」「余白」などを予め決めておくことが望ましいと言えます。
反復のルールの中でも、「対比」を用いて変化を加えることも読み手を飽きさせないポイントです。
同じ反復に、表と写真、種類の異なるフォント、色などで変化を与えることで、読み手の視線をコンテンツの1つに集中させることもできます。
反復+コントラスト事例
まずはレイアウト ① 余白
余白の使い方って、意外に難しい。
なんとなく個々人の感覚によるところが大きいと感じます。
余白を使うということは、一体どういうことなのか。
自分なりに整理をしてみると、
- 余白は引き算の結果である
- 余白はまとまりを作る
- 余白はコントラストを生み出す
ということ。
1.余白は引き算の結果である
まず伝えたい文章や数字情報、図・写真などを掲載するに際し、キャンバスとなる紙面やスライドにどこに置くかを大まかに設定した上で、伝えるべきもの以外の不純物を取り除いていきます。
不純物とは具体的には、表における枠や、グラフにおける罫線や凡例、フォントの字の太さ、写真の必要な被写体以外のもの、など。
伝えるにあたり、不純物と思われるものと極限まで排除していくことで、沢山の余白を作るとことが大切です。
目に入る情報量を抑えることで、伝える相手に必要以上の負担を与えないことです。
プレゼンテーションにおいては、1枚に対し1つのメッセージであることが望ましいとされています。
主張すべきことを1つに絞り、それに付随する情報の範囲で限定的に整理するということでしょう。
究極的には、説得力を持って伝わるのであれば、メッセージ文を1文のみ掲載しても良いわけです。
どうしても詰め込みがちですよね。
2.余白はまとまりを作る
よく言われる「ゲシュタルト効果」というやつです。
これは無意識のうちに、人は近接するものをまとまりとして認識するという心理現象です。
したがって、余白はまとまりを分ける役割となります。
情報の近接化は、伝えたいもののグルーピングを考えた上で行います。
ただし、近接させすぎもダメです。つめ過ぎは圧迫感を生み出し、視線が近寄らないという問題を起こします。
文章などの場合、行と行の間は文字の大きさの0.5〜0.75倍の余白を持たせると読みやすくなるということです。
これ以上開けると、グループとして認識されなくなる恐れがあります。
3.余白はコントラストを生み出す
「密」の部分と「疎」の部分とのバランスで、コントラスト(対比)を生み出すことができます。
最も伝えたいメッセージは、余白の多い「疎」の部分に置き、際立たせます。
文字や図表などの大きさに差をつけ、視線を「密」より先に「疎」に向かわせるのも重要です。
ここでは「ジャンプ率」が関わってきます。
「疎」にジャンプ率の高い文字や図表などを置くと、真っ先にそこに目がいきます。
情報を一瞬で理解してもらう方法として有効です。
どの場所に「密」と「疎」の部分を作るかは、いくらでもパターンがあるはずです。
ただし、置き方によって人の感じ方に差が出るでしょう。
この辺りは「配置」に関係する内容ですが、もう少し勉強が必要です。
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素人がデザイン力を身につけるとしたら・・・
最近、とても気になっていることがあります。『デザイン』です。
「デザイン思考が必要だ」「AI×デザインの時代」などと、いろんなところでデザインの必要性が叫ばれています。
しかし、そもそも美術センスを持ち合わせていない自分としては、デザインという言葉を聞くだけで、「ムリムリムリ!」ってなります。
でも、これからのビジネスマンには、デザインが不可欠なスキルとなると感じています。
それはなぜか。
情報が氾濫する時代に、何かを提供する側としては、提供される側がそれに興味を持ち、容易に理解することで、選択をしてもらう必要があります。
そこに『デザイン』が重要な要素となるからです。
つまり「デザイン=〇〇やすさ」みたいなことでしょうか。これがどのような場面でも大切になります。
特に仕事柄、プレゼンテーションにおけるデザインは極めて重要と考えます。
とはいえ、『デザイン』という言葉の意味は、年を追うごとに広がっています。手段というよりは、素養あるいは創造性のような使われ方になっています。
とても気高いニュアンスがあります。
ここでは自分自身に『デザイン』のセンスがあるかないかは気にせず、まずは日常の気づきを中心に、『デザイン』の手段を学んで行こうと思います。
ガー・レイノルズの『プレゼンテーションzen』では、
「初心を持ってクリエイティブな課題に取り組めば、固定観念や習慣、常識的にそうだと言われていることに煩わされずに、物事をはっきりと、ありのままに見ることができる」
とあります。「この歳で今更・・・」ではなく、「初心」で臨み、『デザイン』を身に付けたいと考えます。